伊香保の街 与謝野晶子 榛名山の一角に、段また段を成して、 羅馬時代の野外劇場の如く、 斜めに刻み附けられた 桟敷形の伊香保の街、 屋根の上に屋根、部屋の上に部屋、 すべてが温泉宿である、そして榛の若葉の光が 柔かい緑で 街全体を濡らしてゐる 街を縦に貫く本道は 雑多の店に縁どられて、 長い長い石の階段を作り、伊香保神社の前にまで、 Hの字を無数に積み上げて、 殊更に建築家と絵師とを喜ばせる